「旧暦八月十七日の晩に、おらは酒をのんで早く寝た。おおい、おおいと向うで呼んだ。起きて小屋から出てみたら、お月さまはちょうどそらのてっぺんだ。おらは急いで舟だして、向うの岸に行ってみたらば、紋付(モンツキ)を着て刀をさし、袴(ハカマ)をはいたきれいな子供だ。たった一人で、白緒(シロオ)のぞうりもはいていた。渡るかと云ったら、たのむと云った。子どもは乗った。舟がまん中ごろに来たとき、おらは見ないふりしてよく子供を見た。きちんと膝に手を置いて、そらを見ながら座っていた。
お前さん今からどこへ行く、どこから来たってきいたらば、子供はかわいい声で答えた。そこの笹田(ササダ)のうちにずいぶんながく居たけれど、もうあきたから外(ホカ)へ行くよ。なぜあきたねってきいたらば、子供はだまってわらっていた。どこへ行くねってまたきいたらば、更木(サラキ)の斎藤へ行くよと云った。岸に着いたら子供はもう居ず、おらは小屋の入口にこしかけていた。夢だかなんだかわからない。けれどもきっと本統(ホントウ)だ。それから笹田がおちぶれて、更木の斎藤では病気もすっかり直ったし、むすこも大学を終ったし、めきめき立派になったから。」
こんなのがざしき童子です。
(『月曜』大正十五年二月)